令和6年 年頭の辞
九州運輸局長 吉永 隆博
新春を迎え、謹んで御挨拶申し上げます。
長く続いたコロナ禍もようやく収束し、国内外の観光需要は急速な回復を見せており、旅客・貨物動向においてもコロナ前に近い状況まで回復してきました。
また、昨年7月には南阿蘇鉄道が全線で運転再開し、8月にはJR九州日田彦山線のBRT「ひこぼしライン」が開業するなど、災害からの復旧、復興が着実に進んだ喜ばしい年でありました。
一方で、生産年齢人口減少に伴う運輸・観光業界の人手不足や物流2024年問題、復旧・復興が道半ばの被災地域への対応等々、取り組むべき課題や問題が山積しております。
九州運輸局としては、地域の発展、運輸・観光業界の更なる成長に向けてしっかりと支援してまいります。
さて、年頭に当たり、九州の運輸・観光行政に関する抱負を述べさせていただきます。
まず、持続可能な地域公共交通の観点からは、コロナ禍の収束に伴い旅客需要は回復しているものの、旅客人員はコロナ禍前の8〜9割ほどに留まるとともに、運転手不足や原油価格高騰の影響もあり、交通事業者の経営状況は依然厳しい状況が続いております。
このような状況は、交通事業者だけで解決できるものではなく、関係者との連携と協働により、地域一体となって地域交通ネットワークの「再構築」に取り組んでいく必要性があることから、昨年、地域公共交通活性化再生法が改正されました。
国土交通省では、総理指示のもと、「地域の公共交通リ・デザイン実現会議」を立ち上げ、関係省庁と連携して、地域交通の再構築と地域の社会的課題解決を一体的に推進するための議論が行われておりますが、九州運輸局においても、この会議の議論を注視しつつ、引き続き地域公共交通の再構築に向け、地方公共団体や交通事業者とも連携して取り組んでまいります。
とりわけ鉄道のあり方については、広域的な交通ネットワークを形成することから多くの関係者にまたがる複雑な調整が必要となるため、国が再構築協議会を組織する制度が創設され、併せて社会資本整備総合交付金の活用が可能となっております。九州運輸局といたしましては、地域において持続可能な交通のあり方について検討されるにあたり、地方公共団体や事業者など関係者相互間の連携と協働が促進するよう取組を進めてまいります。
また、移動ニーズに対応して複数の公共交通等の検索・予約・決済を一括で行うサービス(MaaS)を九州一体で提供する「九州MaaS」について、九州地方知事会と経済団体で構成される九州地域戦略会議で昨年5月に「九州MaaSグランドデザイン」が承認され、本年夏頃のサービス開始を目標に準備が進められております。このような九州発のチャレンジに対して、財政面に限らないあらゆる視点からしっかりと支えてまいります。
バリアフリーの観点からは、誰もが安心して参加し、活躍することができる真の共生社会の実現に向けて、各公共交通事業者と連携し、ハード・ソフト両面でのバリアフリー化をより一層推進していくとともに、移動等円滑化に関する国民の理解と協力、いわゆる「心のバリアフリー」の認知度向上や意識の醸成に更に取り組んでまいります。
また、交通分野における脱炭素の取組も重要です。2050年カーボンニュートラルや気候危機への対応など、「国土交通グリーンチャレンジ」に沿って、燃料電池自動車等次世代自動車への転換、デジタル技術を活用したスマート交通やグリーン物流の取組を分野横断・官民連携して進めてまいります。
観光による地域振興の観点からは、昨年3月31日に2025年までの3年間を計画期間とする第4次観光立国推進基本計画が閣議決定され、「持続可能な観光」、「消費額拡大」及び「地方誘客促進」をキーワードに、単なるコロナ前への復旧ではなく、これまで以上に質の向上を重視した形での復活を図ることが示されました。
「持続可能な観光」の面では、需要の分散・平準化、マナー違反行為の防止・抑制、地域住民と協働した観光振興などを図る取組や、宿泊業の人材不足解消に向けた施設の高付加価値化、機械化・DX化などの取組を支援し、持続可能な観光地域づくりを推進してまいります。
「消費額拡大」及び「地方誘客促進」の面では、九州の誇る文化、自然、食などを活用し、特別な体験や期間限定の体験を創出する取組、まだ認知されていない魅力ある観光資源を掘り起こす取組など、高付加価値旅行者を惹きつけるとともに滞在時間を延ばすなどインバウンド誘客はじめ国内交流拡大の取組を推進してまいります。
また、高齢者・障がい者など、誰もが安心して旅行することができる環境の整備に取り組んでまいります。
また、本年4月から6月にかけてJRグループの「福岡・大分デスティネーションキャンペーン」が、10月には第2回開催となる「ツール・ド・九州」が予定されています。こうした好機を逃さず、その波及効果を九州全体でしっかりと取り込むことができるよう、地域の関係者の皆様と連携してまいります。
運輸の安全・安心の観点から、まず、鉄道分野では、現在も自然災害により運転を見合わせている線区もあります。引き続き復興に向けて関係者と協議を行うとともに、できる限りの支援を行ってまいります。
また「輸送の安全確保」を目的として、管内鉄軌道事業者に対し、気象情報及び鉄軌道事故の発生状況等、安全運行に係る情報を提供するための「保安連絡会議」の開催など、鉄軌道に関する安全意識の高揚と情報の共有化の取組をすすめてまいります。
自動車分野については、事業用自動車の飲酒運転や健康起因事故等への対策、死者・重傷者数削減など「事業用自動車総合安全プラン2025」の目標の達成及び大型車の車輪脱落事故防止に向け関係機関と一丸となって取り組んでまいります。
また、近年急速に進化・普及している先進安全技術や自動運転技術に対応するための整備事業者の認証取得手続きへの対応や令和6年10月以降の継続検査から本格運用が開始されるOBD(車載式故障診断装置)を活用した新たな自動車検査制度への移行が、円滑かつ適正に実施できるよう準備を進めてまいります。
海事分野については、一昨年に発生した知床遊覧船事故にかかる「旅客船の総合的な安全・安心対策」の66項目のうち、改良型救命いかだの設置にかかる船舶の安全基準の強化等35項目が既に実施されているところです。
本年には残り31項目について、事業許可更新制度の創設をはじめ事業者の安全管理体制の強化等が順次開始されます。引き続き、監査・検査執行体制の強化等の対策により安全・安心な小型旅客船の実現に向けて、迅速かつ適切に取り組んでまいります。
物流革新と人材確保の観点からは、近年、自動車運転手や船員、自動車整備士、造船等の技術者、また宿泊業従事者など運輸・観光業界を担う人材の不足が深刻化しています。
九州運輸局では、昨年、関係行政機関等と連携し運輸分野を紹介する「業界を知るセミナー」、「めざせ!海技者セミナー」、「自動車整備士との車座対話」、「女性のための宿泊業セミナー」など運輸・観光関係の雇用の維持・確保に向けた取組を行ってきました。本年も、各事業者における雇用の状況等を踏まえながら、運輸・観光における人材確保に取り組んでまいります。
とりわけ、物流の停滞が懸念されるトラック事業における2024年問題では、何も対策を講じなければ2024年度には14%、2030年度には34%輸送力が不足する可能性が指摘されています。
このため、政府は昨年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を策定し、賃上げや人材確保など、早期に具体的な成果が得られるよう可及的速やかに各種施策に着手するとともに、2030年度の輸送力不足の解消に向け可能な施策の前倒しを図るべく、「物流革新緊急パッケージ」をとりまとめ、政府一体となって緊急的に取り組むこととしています。
また、「物流の効率化」を推進する取組として、長距離輸送の幹線部分をトラックから鉄道や内航海運へシフトする「モーダルシフト」を強力に推進することとしており、鉄道コンテナ、内航フェリー・RORO船等の輸送量・輸送分担率を今後10年程度で倍増させる目標が掲げられております。
九州運輸局としましても、九州の地域特性を踏まえ、モーダルシフトの推進に積極的に取り組むとともに、「物流革新緊急パッケージ」に基づき、トラックGメンによる荷主・元請事業者の監視強化、「標準的な運賃」の拡充・徹底等、GX・DX化等「物流の効率化」の推進等各施策について、関係機関・団体とも連携し、持続可能な物流の実現のため取り組んでまいります。
以上のように、九州運輸局では、「運輸と観光で九州の元気を創ります」をキャッチフレーズに、社会・経済情勢の動向に対応した各種課題の解決に向け、職員一丸となって取り組んでまいる所存です。
結びに、九州の発展と皆様方の御健勝と御多幸をお祈りして、新年の御挨拶といたします。