すぽっとライト ナンバー五十三 四国運輸局では、消費者ニーズや消費者行政上の課題を把握し、 その結果を行政に役立てていくことを目的として公共交通機関の 利用者等を対にインタビューを行っています。 今回は、香川県内で視覚障害者への歩行訓練や学校の講義・事業者向けの 研修の講師として指導や啓発などの活動を行っている 香川県視覚障害者福祉センターの中口さんにお話をお伺いしました。 中口さんが勤めている香川県視覚障害者福祉センターの組織や 取り組みについて教えてください。 香川県視覚障害者福祉センター(以下、センター)は、視覚障害者への情報提供施設です。 点字図書と録音図書の制作や貸し出し等を行う点字図書館業務や、 日常生活での困りごとの相談や訓練を行う業務等を行っています。 公益財団法人香川県視覚障害者福祉協会という当事者団体が運営しているのが特徴かなと思います。 中口さんが、香川県視覚障害者福祉センターで勤務するようになったきっかけを教えてください。 視覚障害者への歩行訓練業務を、センターで新たに始めるという時に声をかけてもらいました。 センターが行っている点訳ボランティア養成講習会を、大学卒業後に受講したのがきっかけです。 訳あって途中でやめてしまいましたが、当時講師をしていた職員が覚えていてくれて。 歩行訓練を始めるにあたって、声をかけてもらい、それで入ったわけです。 入社後、大阪にある日本ライトハウスで、視覚障害者(児)への歩行訓練等の 指導者を養成する研修を修了し、今の業務にあたっています。 センターの取り組みの中で、印象深かったことや、困難等があれば聞かせてください。 主な担当は、視覚障害者への個別支援です。 携わった支援はどれも印象に残っています。 一人一人にお会いして相談事を聞いて支援を行うわけですが、視覚障害者と一括りにいっても、 色んな方がいて色んな生活をしているので、困りごとは多種多様なんです。 その要望のすべてに答えられた訳ではなくて、ご希望やご期待に添えなかったこともあるので・・・ それが困難なことというか、申し訳ないと思うことですね。 相談者の方自らこちらのセンターに連絡をしてこられるのですか? 困りごとは多種多様との事ですが、どういった内容のものが多いというのはありますか? ご本人から連絡をいただくこともありますし、ご家族や身内の方、 眼科から連絡をいただくこともあり、様々です。 病気など、原因も色々ありますし、幅広い年代の方から相談があります。 内容は、移動・歩行の不安や、新聞などの文字が読めなくなった、 書きたいところに文字が書けなくなったという読み書きの相談が多いです。 それらが困難になってきて、もう何もできないと思ってしまいがちなのですが、 道具を利用したり、やり方を変え、工夫をすることで、これまで通りできることがありますので、 それをお伝えします。 当局の職員研修(視覚障害者サポート講座)では、限られた時間の中で、 局員にお話しいただいていますが、どのようなことに気をつけていますか? また、何か印象に残ったことはありますか? 研修では、最初に視覚障害者の講義を聞いていただきます。 その後、参加者には見えにくいゴーグルをつけてもらって、 駅で困ること、電車に乗る際に困ることを体験していただきます。 こういうことが困る、サポートした方がいいとわかってから、実際のサポート方法をお伝えして、 最後にサポート体験をしてもらうという流れです。 全体を通して、僕が先に一から説明するのではなく、講義や体験を通じて参加者自身で気づいてもらい、 感想を言い合うようにしてみんなで共有しています。 印象に残っているのは、普段から、白い杖を持っている人を見かけますと言ってもらうことです。 気になっているけれど、見守る方がいいのか積極的に声をかけた方がいいのか、 迷う方もいらっしゃるようです。 視覚障害者にとって、周囲の人が気にかけてくれていることは安心につながります。 少しでも不安そうな素振りをしていたり、迷っているように見えたら、 声をかけてもらえるとありがたいなと思います。 バリアフリー教室で児童が体験する際に気を付けていること、印象に残ったことはありますか? バスを使わせてもらっているので、視覚障害者がバスに乗車する上で困ることについては、 きちんと伝えたいなと思っています。 バス停で待っているとき、時刻表を見て調べることが難しかったり、 到着したバスがどこ行きのバスかわからないことがあります。 それらを教えてくれたり、乗車後、空席を教えてくれると助かります。 そのようなサポートを伝えていきたいです。 小学生にとって、大人である視覚障害者に声を掛けるのは少し怖いことなんじゃないかと考えます。 視覚障害者については、学校で習い浸透しているのか、接し方についての知識がある児童が多くいます。 でも、実際に会ったことは無いという声は多く、まだ遠い存在なのかもと感じます。 身近にいて、バスに乗ったら会うかもしれないねと伝え、意識してもらうようにしたり、 体験メニューの中身を考えたりしています。 コロナ禍における感染防止のため非接触のバリアフリー教室についてどうお考えですか? 視覚障害者の安全を考えると、移動時の支援では、身体のどこか一部を持たせてもらう 従来の方法はどうしても必要なことになります。 感染防止のためには、手指の消毒の徹底、マスク着用、体調不良時は外出を控える等の 対策・対応をするようにしています。 視覚障害者の特性をご理解いただけたらと思います。 四国内の交通関係のバリアフリー化については、数字の上では徐々に進んできていますが、 中口さん(もしくは視覚障害者福祉センター)から見て課題と感じることはありますか? 利用して良かった駅や車両、職員の対応、当事者の声などを教えて下さい。 日常的にことでんを利用するために駅で歩行訓練をしていた時の話ですが白い杖を持っている 視覚障害者を見かけた駅員さんが「何かお手伝いしましょうか」と、パッと来てくれました。 僕、真横にいるんですけどね(笑)。 本当にすぐ声をかけてくれました。 そういうのって、すごく嬉しくて。 バリアフリーについて、ソフト面ではいいことが多いような気がしています。 JR高松駅のホームで視覚障害者サポート講座を開催していますが、そういう講座をやりたいと JR四国へ提案すると、一緒にやってくれたりとか。 同行援護従業者養成研修という、資格取得のための講座があるのですが、 その講座では、ことでんやことでんバスに実際に運行している列車やバスを使わせてもらっています。 施設等のバリアフリー化や視覚障害者が安全に安心して外出するための取り組みとして、 それらの対応に感謝しています。 公共交通の利用について、中口さんが(もしくは視覚障害者福祉センターで)取り組んできたことや 取り組みたいことがあれば教えてください。 一つは、視覚障害者サポート講座です。 講座を通じて、視覚障害者の理解と、支援が社会に広がっていけばと思っています。 香川県でもホームからの転落が実際に起こっています。 その場に居合わせた乗客等からの声かけがあると事故を防げるかもしれません。 声のかけ方、サポート方法を、実際にこうして下さいと伝えるサポート講座の開催は有効だと考えています。 主催はセンターですが、施設を提供していただいているJR四国、 そして講師の視覚障害者が所属しているあなぶきパートナーに協力をいただいて開催ができています。 もう一つは、同行援護従業者養成研修です。 同行援護という視覚障害者の外出を支える福祉制度があります。 その制度に従事するガイドヘルパーを養成する研修会なのですが、 支援現場では、列車やバスに乗ることがあります。 視覚障害者の外出、社会参加においては、公共交通機関は必要な手段です。 安全に安心して利用できるように、その環境を整える取り組みを今後も行っていきたいと思っています。 行政に対して、こころのバリアフリーを進めていくうえで、何かアドバイスをお願いします。 また、公共交通機関を所管している当局に対して、意見・要望はありますか。 本当、公共交通機関はすごく必要なんです。 でも、利用したくても利用できない方がいます。 駅とかバス停が近くにないから乗れないという人、減便や廃線になったりで利用しづらくなった人もいます。 行動範囲、生活範囲を広げるため、駅やバス停までの送迎を担ってもらえるといいなと思います。 例えば、地域住民にそういうつなぎ役になってもらえたら。 公共交通機関を利用するための支援を、連携してやってもらえたらというのが、行政にお願いしたいことですね。 高知県で、どのバス会社がどの地域のどこを走っているかが一目見てわかる地図をつくったというニュースを見ました。 香川県にもあるといいですよね。 コミュニティバス等、詳しくわかっていない人もいるかと思います。 地図を見て、この地域には何も無いとわかれば、その場所には新しい社会資源を作ったらいいと思います。 公共交通機関を利用するための支援をお願いできたらと思います。 これからの中口さん(もしくは視覚障害者福祉センター)の活動について、お聞かせください。 見ていただきたいものがあります。 香川県視覚障害者福祉協会が作った『ありがとうカード』です。 当協会は、香川県の視覚障害者の社会参加の推進を目的の一つとして取り組んでいますが、これはその一環です。 表はありがとうのメッセージ、裏には普段こういうことで困っているので、 こういう風に声をかけてほしいという事例を書いています。 これから出会う人、既に身近にいてありがとうと伝えたい人にこのカードを渡すことで、 視覚障害者への支援の輪が広がればと思います。 2020東京オリンピック、パラリンピック開催に向け、様々な場面でバリアフリー化が進められていますが、 期待することを聞かせてください。 都心部では、ホームドアの設置など、ハード面がどんどん整備されていますよね。 香川県では都会のようにはいかないかと思いますが、パラリンピック選手がテレビ等で特集されたり、 競技を紹介されたりすると、色んな障害があることを学び、それがソフト面のバリアフリー化につながると思います。 知らないからわからなくて、視覚障害者とも接するときに難しく考えてしまっている場合があるかと思います。 知る機会が増えて理解が広まっていくという良いサイクルが起こればなぁって思います。 視覚障害者と関わる機会を持つ等、身近に感じる環境作りを意識した仕事に取り組んでいきたいと思います。 インタビューを終えて  所属されている香川県視覚障害者福祉センターの岡館長も、絶大な信頼を寄せています!とおっしゃるほど、 精力的に活動されている中口さん。 お話の中にあった高松駅での研修には、インタビュアーも参加したのですが、中口さんも当事者講師の方も、 優しい語り口と説得力のある内容で、非常にわかりやすく、充実したあっという間の1時間でした。 これからも行政や交通事業者さんと一緒に活動していけたらという嬉しいお言葉もいただきました。 声かけやお手伝いは当然のことと皆が思えるような社会を、共に目指していきたいと思います。 インタビュー実施日 令和3年6月十八日金曜日 聞き手 廣瀬 戸田 以上です。