すぽっとらいと ナンバー五十九 誰一人取り残さない防災を目指して  車いす避難サポーター養成講座 四国運輸局では、公共交通事業者、観光事業者、当事者・支援団体や利用者等の方へのインタビューを行い、貴重な意見や提言をいただいております。  今回は、災害時等で一人でも多くの方の命を救いたいとの思いから各地域で車いす避難サポーター養成講座を開催されている徳島文理大学保健福祉学部理学療法学科教授 柳澤 幸夫さんにお話をお伺いしました。  理学療法士の道に進まれることとなった経緯を教えてください。 私が高校生の時は、リハビリのことについてはあまりクローズアップされてなく、認知度の高くない世界でしたが、母親が看護師だったこともあり、理学療法士という世界があることを教えてもらい受験することにしました。また、高校生の時にスポーツをしており、体を動かすことが好きだったということもあり、スポーツ障害に関係する仕事にも興味がありました。 理学療法士は病院の救急医療から在宅医療まで様々な現場での業務があり、なおかつ、スポーツ選手の怪我などのリハビリにも関わることが多かったので、そこに魅力を感じて理学療法士の世界に進みました。  教授になることを目指されることとなった経緯を教えてください。 私が、病院に勤めて約9年、三十歳ぐらいの時に、患者さんのリハビリに携わっていく中で、自分が携わった検証のみならず、より多くのデータをもとにした科学的なデータ分析や統計解析などの研究を行うことに興味が湧いてきたことがきっかけです。 臨床現場では、理学療法士は一人ひとりの患者さんに対して、治療するだけでなく、治療の効果、判定も行なっているのですが、それをある一定程度の母集団で見た際に、その治療の有効性についてより一層研究を深めたいと考えていましたが、検証の手順等を含めてそのやり方がわからない、知識的に力不足を感じました。 そこで、より知識を深めるために、徳島から通える大学院を探していたところ、神戸市西区の有瀬にキャンパスのある神戸学院大学で総合リハビリテーション学研究科の大学院が創設されるということを聞き、受験することを決断し、その学部の1期生として入学することとなりました。 卒業まで5年間、徳島から公共交通などを使い、働きながら週3回通学しました。大学院では、統計解析など研究の基礎となる多くのことを学ばせていただきました。そこで学んだことが今の自分の支えとなっていると思っています。また、私がその大学院での博士号取得者第1号であり、当時の教授の先生方からも「誰でも1号はなりたくてもなれません。本当によく頑張りました。」と言われました。今後も、研鑽を積み続けたいと思います。 大学院の在学中に、病院で様々な患者さんと向き合うことも非常に重要なことですが、自分のやっている研究等を含めて、多くの学生や様々な人に伝えたいという想いがだんだん強くなってきたこと、また、ご縁もあり大学院を卒業後は、徳島文理大学の准教授となることができました。  大学での授業で心掛けていることや学生との接し方で工夫していることを教えてください。 理学療法等の大学教員には、ある程度の臨床経験年数と修士号や博士号が必要となることが多いです。学生に臨床を伝えるのに臨床経験は当然、必要となってきます。私も病院に勤めていた時に臨床を17年間経験し、現在でも週に1度は臨床のために病院へ通っています。 学生には、できるだけ実際の臨床現場がイメージできるように工夫しながら、実践に重きをおいた授業を行っています。 また、スキル以外にも臨床は患者さんとの関わりが重要になってきます。コミュニケーション力、患者さんの反応を判別できる観察力、その反応に対して柔軟に治療を行う対応力や手術前後等で精神的に不安定になっている患者さんへのメンタル的なケアなど総合的に学生の能力を育てていかなければいけないと思っています。学校卒業後は、プロとして患者さんと向き合うこととなるので、学生には患者さんからこの人で良かったと思ってもらえるような一生懸命な対応ができる理学療法士になってほしいと思っています。  車いす避難サポーター養成講座をはじめられたきっかけ、思いについて教えてください。 防災について考えはじめたのは二千十一年に発生した東日本大震災がきっかけです。 当時、私は病院で訪問リハビリテーションを担当しており、午前中は各患者さんの自宅へ訪問、午後からは病院でのリハビリを行っていました。東日本大震災の発生時は、午後のリハビリを病院で行っていたのですが、テレビから様々な建物などが津波に飲み込まれる衝撃的な映像が流れていました。勤めていた鳴門市でも揺れがあったので、病院近くの坂道を歩いて高いところに避難されている方もいらっしゃいました。 その時、私は午前中に訪問した患者さんのほとんどが自力で動けない方でしたので心配するとともに、訪問リハビリテーションを受けている多くの方の防災対策が講じられていないことについて危機感を感じました。幸いにも、鳴門市に被害はなかったのですが、自力で避難ができない方などの防災対策について考えていかなければいけないと強く思うようになっていました。 理学療法士は仕事の特性上、在宅療養されている方の身体機能をよく理解しています。特に訪問リハビリテーションを受けている方の状況を把握していたので、地震発生の1年後、訪問リハビリを受けている方に避難意思についてのアンケート調査を実施しました。これは鳴門市内の方を対象に行ったので、鳴門市内にある全ての訪問リハビリテーション事業所に協力をお願いしました。 アンケートの結果、要介護4又は5の方について、約6割が 避難しない という回答でした。避難しない理由としては  避難所がわからない 、避難所まで行ったことがない や 避難所まで要介護者を連れていけない、支援方法がない わからない などでした。様々な避難しない理由は挙げられますが、その中で、サポートがあれば避難可能なものについて、どうにかできるのではないか、 助かる命を助けることにつなげる ことができるのではないかと考えました。避難経路の坂道などハード面についての整備は難しいですが、 支援方法を地域や要介護者の家族に広める などのソフト面での取組はすぐにできるのではないか、また、それは地域の防災力の向上につながるのではないかと考え出したことが、 車いす避難サポーター養成講座 のきっかけだと思います。ただ、当時、病院に勤める理学療法士でしたので、すぐに講座を実施するということはできませんでした。 しかしながら、徳島文理大学で理学療法士の育成に携わりながら、防災士の取得や車いす避難サポーター養成講座に含まれる技術的な効果検証を行ってきました。当時の田村学長からも 災害時の移動に支援が必要な方に関する調査や研究は、非常に意義のある研究だ と後押しのことばをいただけたことも研究を進めていくことの自信となりました。 徳島文理大学にきて初めて行ったことが、携帯用移動介護補助具 ちょい楽ばんど の検証と災害時に使用する鳴門市内の緊急避難所 高台 までの経路についての実態調査です。実態調査では病院関係者や学生等の多くの方に協力いただき実施することができました。 実態調査により経路上にある様々な障害物について把握することができ、 車いす避難サポーター養成講座 での実技演習の6種類 グレーチング、じゃり、段差、液状化、がれき、階段 の選定にも役立ちました。また、実態調査に協力してくれた関係者からアドバイスをいただきながら養成講座の内容を決定することができました。関係者の皆さんの協力もあり、令和元年十二月二十五日に徳島文理大学の徳島キャンパスにて初めて養成講座を開催し、現在も地域連携事業として毎年開催しています。  今までに開催した地域、回数、受講者数について教えてください。 インタビュー時点 二千二十六年1月二十三日 で、開催地域は5県 徳島県、香川県、高知県、和歌山県、奈良県 、総開催回数九十九回、総受講者数二千七百二十二名です。 また、今年度は二十回開催しており、五百四十四名の方に参加していただきました。  公共交通事業者への開催実績について教えてください。 事業者さんから依頼を受けて開催したことはまだないですが、徳島文理大学で開催している養成講座に四国旅客鉄道株式会社の職員さん、介護タクシーの事業者やタクシー協会の方などから参加の申し込みがありました。また、最近では、自治体の危機管理課、医療、介護関係の関係者、自主防災会の方や中学、高等学校、また支援学校の先生などの参加が増えてきています。おそらく一般の方を含めて新聞や自治体の広報などで知った方が申し込まれることが多いと思います。 また、地域の防災には今後、若い人たちの力が必ず必要と考えておりますので、中学や高校などの学校からの開催依頼は必ず受けるようにしています。  開催当初から改善されたことについて教えてください。 例えば垂直避難の際に前と後ろで負担の違いについて、開催当初は検証の結果が十分ではなかったこともあり言及していませんでした。また、 車いす避難サポーター養成講座 は実技を体験してもらいサポートのスキルを身に付けてもらうことに重点をおいた内容としていました。 現在では、避難支援の身体的負担の検証が進んできたこともあり、座学の講習部分でより理論的な説明を行い、理解してもらった上で実技を体験してもらうという形にしています。 今後はさらに肢体不自由児者などの特殊な車いすについても検証を進めて、養成講座に落とし込んでいきたいのと垂直避難の体験に今後新たに作成する補助具を使用した体験を追加したいと考えています。  申込があった場合はどの地域まで対応が可能かについて教えてください。 車で行けるところであればどこでも可能です。可能であれば、遠方地での開催では、午前、午後の二部構成など可能な限り多くの方に参加してもらえるようにしていただければ助かります。  開催を依頼する場合にどのような情報や設備が必要かを教えてください。 水平避難にはバレーボールのコート半面ぐらいのスペースがあれば実施は可能で、階段があれば階段を使用した垂直避難を行いますが、無くても対応可能です。天候に左右されない屋内での実施がいいと思いますが、屋外でも実施はできます。  今後、導入を検討している体験を教えてください。 新たに開発する移動支援道具を水平、垂直避難体験に導入していきたいです。また、体験者から使用した感想をいただき、さらなる改良を行い、製品化、汎用化を進めていきたいです。移動支援道具は高額なものが多いため、少しでもコストを抑えてより多くの方に利用していただけるモノを開発できればと考えています。  今後の柳澤教授のビジョン、目標を教えてください。 車いす避難サポーター養成講座 を実施できている地域がまだ限定的で、体験者からの感想を聞くと各地域にはまだまだ多くの身動きが取れない方がいらっしゃることを感じます。また、高齢化も進んでおり、そういった方たちのために自治体では個別避難計画の作成を進めていますが、作成率も高くはありません。災害が発生した際は、状況にもよりますが避難サポートができる人の有無、またその方の避難サポート技術の有無にも影響を受けると思います。 だからこそ、避難サポート技術をもった人を少しでも多く増やしていくために、現在の対面形式での講座の継続、さらにはオンラインでの講座開催など、新たな技術を駆使しながら、この養成講座を全国へと展開していければと考えています。  インタビューを終えて 今回は徳島文理大学保健福祉学部理学療法学科教授として、日々、実践的な教育を重視した授業で学生の教育に力を入れておられるとともに、防災バリアフリーの発展にもご尽力されている柳澤さんにインタビューを行いました。  また、本年度は、当課が開催したバリアフリー研修にご協力いただき、研修の体験者からは新たな学びの機会になったなどの感想をいただいております。 今回のインタビュー 車いす避難サポーター養成講座 に対する思いや今後のビジョンについてお話を聞くことができました。今後も、次世代の人材育成や防災バリアフリーの発展に取り組んでいかれることを期待いたします。 インタビュー実施日 令和8年1月二十三日 金  聞き手 森 高川 近藤