すぽっとライト ナンバー五十六 四国運輸局では、公共交通・観光業者や利用者の方へのインタビューを行い、貴重な意見や提言をいただいております。 今回は、愛媛県今治市で高齢者・障がい者に介護サ−ビスを提供するとともに、 その人を支えている介護者への心の支援 相談事業を行い、 地域の人々への介護教育事業を行う、NPO法人わをんの重松美穂理事長と門田千春副理事長にお話を伺いました。 貴法人について教えてください。 またどのような活動をされているのですか。 NPO法人わをんの名ですが、ひらがなの最後のわ行より付けています。 「わ」には言語学的に穏やか、親しくするという意味、 「を」には広大無辺に広がるという意味、 「ん」には自然に振る舞うという意味があります。 五十音の中で、わをんという意味がすごく素敵なので、 まずわをんという名称を決めてから、どんな活動をしようかということになりました。 元々私達は介護の仕事をしていたので、地域に根ざした活動をしようということで、 平成十三年にNPO法人を立ち上げました。 介護保険事業も実施しながら地域に根ざした活動をしよう、というのが目的で、 自分達が高齢者になる三十年後に、人に優しいまちづくりを三十年かけて行っていこうということで始めました。 平成十三年にNPO法人を設立しましたが、ちょうどその年に芸予地震が起こり、 私達に何かできることはないだろうかということで、 災害ボランティアとして高齢者の罹災証明の代行や悩み相談等の活動をしました。 活動当初は法人格がなく無名でしたが、7月にNPO法人わをんという形になり、 またその活動が認められ、毎日新聞社や今治市から表彰していただき、 スタートは割と華々しくデビューしました。 当時平成十三年には災害ボランティアとして心のケアにあたったということで、 新聞やテレビの取材を受けました。 当NPOの法人としての定款に載っている活動の主な内容は 5つ 訪問介護事業 居宅介護支援事業 利用者支援事業 介護者支援事業 介護教育事業 です。 訪問介護事業 居宅介護支援事業を介護保険事業として実施しています。 NPO法人としての活動については自主事業がないと収益に繋がらず、 ボランティアだけでは活動していけないので、 介護保険事業を主軸としてその収益によって実施することしています。 NPO法人の活動としては利用者支援事業 介護者支援事業 介護教育事業の3つの事業を実施しています。 スタッフがケアマネージャーや介護福祉士の資格等を持っているので、 それぞれ事業の中でプロとして、介護者支援事業についてはカラーセラピー等を実施したり、 介護している人の心のケアであったり、 また指導士がいるので運動療法を公民館でお年寄り向けに活動を行ったりしています。 利用者支援事業については、今はコロナで行けていませんが、 グループホームや老人施設でお年寄り達にフラメンコやギター演奏等を施設から要望があれば行っています。 介護教育事業ですが、交通に特化したものという訳ではなく、 当NPO法人では うらしま太郎 という名称の高齢者疑似体験セットを持っており、 お年寄りや障害の方が利用する施設の心のバリアフリーを実施していくため、 スーパーや市役所等の職員向けに、高齢者の物の見え方や 身体の動かしづらさ等を伝える活動をしています。 当NPO法人の使用している高齢者疑似体験セットのうらしま太郎ですが、 東京の長寿社会文化協会というところが開発したもので特許をとっており、 眼鏡も白内障を忠実に再現されています。 このうらしま太郎のインストラクターの資格を取るため、 私達も2日間勉強し実際に装着して体験した上で活動させていただいています。 ただ小中学校では人数が多いため、他の高齢者疑似体験セットを活用して、 実際にまちに繰り出したり日常生活を体験してもらい、 こんな風に見えるから声がけやお手伝をしてほしい とお願いしています。 愛媛県バス協会など、愛媛県下の関係機関と協力して、 交通バリアフリー疑似体験研修を実施していらっしゃるとのことですが、 活動のきっかけを教えてください。 平成十四年に愛媛県がNPO法人との協働事業の募集をしました。 その中に交通バリアフリー等様々なテーマがありました。 当時高齢者の交通事故が増えてきていたこと、また高齢者疑似体験セットのうらしま太郎の インストラクターの資格を取りに来ていたのが 愛媛県内では愛媛県警と当NPO法人ということを聞いていたので、 セットを活用して県警と協働事業を実施してはどうかと思い 応募したのがきっかけです。 平成十六年に松山市 西条市 今治市にて 高齢者疑似体験セットのうらしま太郎を装着しての電動車椅子乗車体験を実施したり、 またデイサービスのバスを運転する職員の方を対象に体験を実施しました。 もう1つ、県の交通対策課が交通モビリティ関係事業を募集していたので、 県警だけではなく他のところとも実施したいと思い応募しました。 その結果、県が愛媛県バス協会と引き合わせてくれて、 高齢者に優しいバスにしてもらいたいということで 平成十六年からバスにて高齢者疑似体験セットのうらしま太郎を活用して、 東予 中予 南予で研修を実施しました。 今治市役所の方が協力的であり助成金も活用でき、 また色々な交通機関にこんな研修をしないかと声かけをしてくれ、 現在では交通バリアフリー疑似体験研修を、伊予鉄バス 瀬戸内バス 宇和島バスさんと共に 毎年実施させてもらっています。 時にはその時のニーズに合わせ車椅子 視覚障害 手話を取り入れることもあり、 平成二十年からは認知症の人も安全に乗れるようにということで、 認知症サポーター研修もあわせて実施しています。 また反射材のシールを作成し市内スーパー等の施設で 高齢者に対して警察官と一緒に配布し車椅子や杖、シルバーカーに貼っていくといった活動も実施しました。 この他高齢者の運転時の交通事故が増えていたので、 自動車教習所の高齢者の担当の教官に、 車は動かさない状態で 白内障の目が見えない状態を体験していただき、 どんな風にみえるのか体験していただきました。 また免許返納だけでなく、高齢者が免許を返納しなくても済むように 予防の段階で運動機能を高めることを目的に、 運動療法と抱き合わせで島根県の益田市にて実施しているのを見学しに行きました。 上記バリアフリー疑似体験の内容について教えてください。 またどの程度の頻度で行っていますか。 交通バリアフリー疑似体験研修は、毎年東予 中予 南予で実施しています。 コロナの時は研修動画を作成し、ズームにて流しました。 継続できているのはバス協会や県のお陰であり、 そこからの支援がないと継続しての実施はできないと考えています。 疑似体験学習では限られた時間の中で説明ということで、どのようなことに気をつけていらっしゃいますか。  体験だけで終わってしまうと、しんどかった、辛かった、嫌だ、で終わってしまいます。 グループワークを実施し、どう感じたか、どう行動していかないといけないか、 フィードバックをして次に繋げてもらわないといけないと考えています。 体験だけではだめで、ディスカッションの時間は大事だと考えています。 また体験学習の中で、どのようなことを伝えたい等ありますでしょうか。 そして研修の効果は実感できますか? 体験の中で必ず言うことですが、 年をとることが悲しいことではない、また年は平等にとるもので、 年をとっても自分らしさを失わない、また自分が生き生きと生活できるためのまちづくりの方が大事 ということは伝えています。 悲しい、辛いとは思わせず、 あなたたちの体験 高齢者疑似体験セットの装着 は十分で脱げるが、 高齢者は脱ぐことができない。だけど支援さえあれば悲しいわけではない ということは強調しています。 また研修効果ですが、子供達が文化祭や色々なイベントで、 体験内容を発表する際に呼んでくれたり、 体験した内容について書いた子供達の作文が入賞したりすると、 私たちの研修が生かされているなと感じます。 また新聞でバスの運転手さん達がとても優しかったという市民の投稿を見ると、 高齢者に対してとても優しく接してくれているから投稿につながったのかなと思い嬉しくなり、 次回のバス研修時にこういう投稿が載っていたとお伝えすることで、循環させています。 こうした時に活動をしてきて良かったと実感できます。 四国運輸局でも小学生等を対象に 交通バリアフリー教室 を各地で開催していますが、 より実効性のあるものにするためにアドバイス等いただいてもよろしいでしょうか。 私達は実際に高齢者疑似体験セットを装着して どう見えてどう動きづらいかをちゃんと実感した上で、 子供達に研修を行っています。 教える側も体験してから実施すると、 目が見えにくくなる 視野が狭くなるというだけでなく、 どれくらい見えにくいのか、どれくらい色が変化するのかということを言ってあげることができます。 耳栓をして音が聞こえにくくなるということも伝えるが、 どんな声のかけ方が聞こえにくい、どんな場所が聞こえにくいだけでなく、 じゃあどうしたら伝わるのかというところまで踏み込んであげないと、 子供たちは楽しかった・嫌だった等の感想だけで終わってしまうと考えています。 高齢化が進むにつれ、地域の人々に対して 介護に対する理解がますます重要な役割を果たしていくと思われますが、 貴法人のバリアフリーについてのお考えをお聞かせ下さい。 自分達が年をとった時の準備として活動しているので、 他人事ではなく自分事として考えています。 将来的には自分達も高齢者になるということが バリアフリーということなんだろうと考えています。 障害もいつ誰が持つか分からないし、その人達だけに良くするのではなく、 皆が住みやすくなれば、という思いがあります。 差し支えなければ今後貴法人で取り組んでいくことや、取り組みたいことがあれば教えてください。 私達は色々な活動をしています。 交通バリアフリー疑似体験研修は二十年続いています。 私達の特徴として、元々介護保険事業をやりたかったという訳ではなく、 介護をしている家族や職員をどうにか元気づけて、 そのまま仕事の離職に繋がらないようにということで始めました。 今後は原点に戻る意味で、介護保険事業がメインではなく、 NPO活動事業である利用者支援事業 介護者支援事業 介護教育事業をやっていきたいと考えています。 メンタルヘルスの研修も企業や行政から依頼が来ていますので、そうした業務も今後やっていきたいと考えています。 行政に対して こころのバリアフリー を進めていくうえで、何かアドバイスをお願いします。 私達の場合は今治市等の行政がバックアップしてくれました。 当初芸予地震の時は、名がなく、活動当初は個人情報等教えてもらえない等の苦労がありました。 災害のボランティアをしていなかったら未だにどんな団体か知られていなかったかもしれません。 全く無名の団体がテレビで取り上げられたり注目を浴びたことで市も協力してくれ、運の部分も多いと思います。 それもきっかけですが、皆を巻き込まないといけないと考えます。 交通バリアフリー疑似体験だけではなく、当NPOが今まで学校 市役所等でやってきた結果、 何か提言しても聴いてくれたり、現在行政の参画の委員に選ばれたりと、 毎年毎年の活動と地道な努力によって、何か活動をしようと思った時に信頼があるというところがあります。 学校でも民生委員さんとか、小さな団体も巻き込んで、 また一緒にやりましょうと声をかけられたら、 子供達の研修に私たちだけではなく、民生委員さんや色々なボランティアさんも一緒になって 体験したり、ゲームをしたりしています。 地域で私達も皆と組まないとできることも限られてくるので、 点でではなく線、線から面になるように繋げていくのが大事と考えています。 インタビューを終えて  交通バリアフリー疑似体験研修を長年継続して続けてこられたのは、 バス協会や県等の支えがあってこそであり毎年毎年の活動が信頼に繋がるというお話と共に、 今後も意欲的にNPO活動事業を充実させていきたいとお話されていたのが印象的でした。 皆が住みやすくなる社会を、共に目指していきたいと思います。 インタビュー実施日 令和5年4月二十四日月曜日 聞き手 山岡 嶋 岡田