北海道におけるモビリティ・マネジメント推進マニュアル


Tモビリティ・マネジメントの基礎知識


 公共交通の活性化や自動車利用の抑制を図ろうとするとき、「モビリティ・マネジメント」という言葉を見聞きする機会が増えてきました。
 ここでは、今後、地域の交通施策を考えていく際に重要となる「モビリティ・マネジメント」に取り組んでいくための、“基本”について説明します。
 なお、「モビリティ・マネジメント(Mobility Management)」は、通称「MM」と呼ばれていますので、これ以降の「MM」という表現は「モビリティ・マネジメント」を意味します。


- 【MMの定義】:モビリティ・マネジメントとは? -

言葉の成り立ちとしては、
「Mobility = 移動」を「Management = 管理・運用」する
と解釈できるものですが、より具体的な定義は次のようになっています。

ひとり一人のモビリティ(移動)が、
社会的にも個人的にも望ましい方向に自発的に変化することを促す、
コミュニケーションを中心とした交通政策
参照)モビリティ・マネジメントの手引き 土木学会 p.1

 ここで、「社会的にも個人的にも望ましい方向」とは、例えば、「過度な自動車利用から、公共交通・自転車等を適切に利用する方向」のことを指します。
 この「方向」だけに注目すると、これまでの道路の新設や拡張、あるいは利用者増を目指したバス路線の再編なども、MMに該当するものと考えられますが、定義の後半にある「コミュニケーションを中心とした施策」という部分、そして「自発的に変化することを促す」という部分がMMを理解する際の“ポイント”となってきます。


●“ポイント1”:MMにおける、「コミュニケーション」

 後述の【MMの手法の整理】の中でも詳しく解説していますが、MMにおいて用いる「コミュニケーション」という言葉には、少し特殊な意味が含まれています。
 それは、コミュニケーションの「とり方」によって特徴づけられていると言えます。例えば、MMのコミュニケーション手法は、社会心理学等の理論に基づいており、「個別的」に(つまりひとり一人に対して)行うことを非常に重要視しています。
 加えて、一般的に、広報誌・ニューズレター・ポスター・チラシ、そしてアンケートなどの紙媒体を広く活用することが多くなっていますが、これは、できるだけ「大規模に」(つまり多くの人々に対して)、「コミュニケーション」をとることで、施策の効果を高めようという意図があるからです。
 このように、「個別的」なものを「大規模に」展開していくというのが、MMの「コミュニケーション」の特徴と言えます。


疑問:直接“お話し”をするような普通のコミュニケーションは、MMではない?
 会話や説明会などによる直接的なコミュニケーションについても、しっかりと“ポイント”を踏まえた内容であれば、MMとして実施することが可能です。紙媒体の施策と合わせて適切に実施することにより、一層の効果を期待することができるでしょう。


●“ポイント2”:「自発的な変化を促す」

 人々の行動(移動)に“変わってもらう(今までと異なる移動をしてもらう)”には、やはり、ひとり一人の個人が「自発的に」その行動(移動)を行うようにすることが最善の策と言えます。
 場合によっては、何かの規制や課金などにより、自動車利用の抑制(望ましい行動)を強制したり、誘導することも必要です。(都心部におけるロードプライシングの導入などがその例です。)あるいは、何かしらのインセンティブを与えて、バス利用(望ましい行動)を促進させるなどの施策も必要となるでしょう。しかし、これらの施策は、極端に言えば「お金がかかるからやらない」、あるいは「安いからやる」という、外部からの規制や一時的な規制の緩和などの“要素”によってもたらされる行動ですから、そのような“要素”がない場合には、元の“望ましくない行動”に戻ってしまう可能性も大きいと言えます。
 地域の現状と将来を考えた施策に取り組む際には、できるだけその取り組みの成果が継続的に続くことが望まれると思います。だとすれば、やはりひとり一人の行動が「自発的に」変化し、最終的には「望ましい方向への(行動の)習慣化」を促すような施策を行うべきでしょう。
 MMでは、このような考え方に基づき、
個人の「意識」や「心理的側面」への『配慮』を重要視しています。“ポイント1”で紹介したように、MMのコミュニケーション手法が社会心理学等の理論を援用しているのは、このような理由によるのです。その具体的な『配慮』の仕方については、【MMの基礎知識】を参照ください。


一口メモ:日常を振り返れば当たり前のこと!!
 仕事の場面、教育の場面など、人に何かを“してもらう”ときは、その人が気持ちよくできるようなコミュニケーションのとり方、その人が自らやる気になるようなコミュニケーションのとり方をするものと思います。MMが重要視しているのは、そのような「人間と人間」のやり取り、人間の「気持ち」のです。


●MMの特徴のまとめ

 「MMとは一体どのような性格のものか」を理解していただくために、少し長い説明をしてきましたが、最後に、これまでの部分で挙げられてきた「MMの3つの特徴」をまとめます。


■MMの3つの特徴

 1.自発的な行動変化を期待する
  規制や課金などによって、自動車利用の抑制を強制したり誘導するのではなく、ひとり一人が各人の事
 情を考慮しつつ、無理の無い範囲で自発的に交通行動を変えるようになることを期待する。

 2.意識や慣習等の社会的・心理的要素に配慮する
  自発的な行動変化を期待するために、人々の意識や社会的な心理的側面に配慮する。そして、そのた
 めに、社会心理学等の理論を援用する。

 3.大規模かつ個別的なコミュニケーションを主体とした施策である
  人々の意識や行動の変化を期待するアプローチとして、「コミュニケーション」を採用する。
  ただし、MMにおけるコミュニケーションは、「大規模かつ、個別的」なものである点が特徴である。すな
 わち、テレビやマス・コミュニケーションよりも、より個別的で、また、数人を対象とした会話よりもより大規
 模なものである。
参照)モビリティ・マネジメントの手引き 土木学会 p.10


●【MMの手法の整理】:モビリティ・マネジメントの手法を整理する

 モビリティ・マネジメントは、【MMの定義】でも説明したように、「自発的な行動の変化」を導くための、「コミュニケーションを中心とした交通施策(政策)」です。ただし、「自発的な行動の変化」をサポートするものなので、コミュニケーション以外の次のような様々な交通運用施策も含まれます。
参照)モビリティ・マネジメント 国土交通省  P.3-7


■コミュニケーション施策
  「自発的な行動変容」を導く最も基本的な方法で、人々の意識や認知にコミュニケーションを通じて直接
 働きかけ、それを通じて行動の変容を目指す施策です。

■交通整備・運用改善施策
  「自発的な行動変容」をサポートすることを目的とした、公共交通の利便性の向上や料金施策、自動車
 の利用規制や課金施策などを意味します。コミュニケーション施策と適切に組み合わせることで、「自発
 的な行動変容」をより大きく期待できるモビリティ・マネジメントの展開が可能となります。

■“一時的”な交通運用改善施策
  財源や合意形成などのために、しばしば、上記のような「交通運用改善施策」の実施が難しい場合があ
 ります。その際には、それらの施策を「一時的」に実施するだけでも、「自発的な行動変容」をサポートす
 ることができます。


疑問:【MMの定義】の中で課金や規制に対する否定的な説明があったけど…?
 MMの性格を把握する上で極めて重要となる「自発性」や「コミュニケーション」について理解していただくために、通常の交通整備や運用改善施策を否定するような書き方をしています。しかし、実際に交通をマネジメントしていく際にこのような施策が必要なのは当然であり、これを実行する際には、MMの特徴である「自発性」や「人々や社会の意識等への配慮」を十分に行うことで、より一層の効果を期待できるようになると考えていただきたいと思います。


これを踏まえて、以上の諸施策について具体例と共に説明します。



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