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北海道運輸局広報誌『北斗七星』第258号(令和6年1月4日発行)印刷用ページ

2024年1月4日 更新

令和6年 「年頭の辞」

北海道運輸局長 井上 健二

北海道運輸局長の写真

 新年明けましておめでとうございます。令和6年の新春を迎えるにあたり、ご挨拶申し上げます。

 昨年5月に新型コロナウイルスの感染症法上の扱いが5類に移行してから半年余りが経ちました。公共交通や物流、観光事業は、新型コロナウイルスの感染拡大により、3年以上の長きにわたって大きな影響を受けてきました。そのような状況にあっても、地域の暮らしや経済活動を支えるエッセンシャルワーカーとして輸送の使命と責任を果たしてこられた運輸・交通セクターの方々、北海道の基幹産業である観光を支え、地域の雇用と経済を守ってくださった観光セクターの方々に対し、改めて敬意を表するとともに深く感謝申し上げます。

 長く続いたコロナ禍は各々の事業経営等に未だ大きな影響を与えていますが、5類移行後は、観光・交通ともに旅客数等は急回復を続けています。例えば、鉄道、乗合バスやフェリー等の交通モードもコロナ前の概ね9割前後まで回復がみられます。また、昨年10月には日本全体での訪日外国人観光客の数がコロナ前の令和元年同月を上回ったほか、国内旅行の実績も好調に推移しており、特に北海道では、国内客・訪日外国人観光客をあわせた宿泊実績が全国を上回るペースで回復し、昨年8月の時点で令和元年同月の実績を10%超上回るなど、北海道観光に対する期待の大きさが数字として既に表れつつあります。このように、経済活動の正常化は着実に進んできていることから、地域の暮らしや経済活動を支える運輸・交通・観光各セクター関係者に求められる役割は、以前にも増して大きくなっていると認識しております。
 全ての運輸・交通及び観光事業にとって、安全・安心の確保は、利用者に信頼される輸送・観光サービスの根幹をなすものであり、最重要事項でありますが、一昨年4月には北海道知床沖で観光船が遭難し、多数の死者、行方不明者を出す重大事故が発生しました。このような痛ましい事故が二度と起きることがないよう、北海道運輸局においても、全ての交通モード等について、安全・安心の確保に全力を挙げて取り組んでまいります。皆様におかれましても、経営トップから現場まで一丸となって、日々の業務、あるいは事業の運営に当たって安全を最優先に取り組んで頂いていることと思いますが、改めて、輸送等の安全・安心の確保に万全を期して頂きますよう、この場をお借りして、重ねてお願い申し上げます。
 また、先般、自動車の安全走行を担保するべき自動車特定整備事業者である株式会社ビッグモーターの不正が発覚したことは極めて遺憾であります。北海道運輸局においても同社の1事業場に対し立入調査を実施し、自動車特定整備事業停止処分を課したところですが、引き続き、所管する自動車整備事業者に対する監督に取り組んでまいります。
 さらに、車両や船舶等に対する検査や事業者に対する監査と、安全管理を組織的に定着させるための運輸安全マネジメント評価とを「車の両輪」として実施すること等により、事故等の発生を未然に防止し、国民の命と暮らしを守ることに全力を尽くしてまいります。

 事故だけでなく、自然災害への対応も重要です。令和4年2月の札幌圏を中心とした大雪による大規模な交通障害の反省を踏まえ、北海道運輸局としましても、交通事業者や関係機関と連携して、今後同様の大雪が発生した場合の、新千歳空港における滞留者解消をはじめとする対応に遺漏なきよう努めてまいります。このほかにも、自然災害発生時の交通情報等のポータルサイトとして「北海道旅の安全情報サイト」を運用し、公共交通機関の運休情報等を提供しております。今後も災害発生時の対応については、代替輸送手段の確保、緊急物資輸送の手配、旅館・ホテルの協力を得ながらの要配慮者の受入等に万全を期してまいります。

 運輸・交通行政における現下の最も大きな課題の1つが、いわゆる「2024年問題」への対応です。本年4月からトラックドライバーに「働き方改革関連法」が適用され、トラックドライバーの労働時間が短くなることなどから、このまま何も対策を講じなければ、輸送力が2030年度には34%不足する可能性も示されており、物流の停滞が懸念されています。このため、昨年10月に取りまとめられた物流革新緊急パッケージ等に基づき、鉄道や船舶へのモーダルシフト等の物流の効率化、荷主、消費者の行動変容、商慣行の見直しに取り組んでまいります。特に、商慣行の見直しに向けては、国土交通省において昨年7月に「トラックGメン」を創設、北海道運輸局においても17名体制で、トラック事業者への積極的な情報収集や関係行政機関との合同ヒアリングの実施、荷主に対する「働きかけ」などを行っており、引き続き、トラック運送事業における適正な取引を阻害する疑いのある荷主企業・元請事業者の監視を強化してまいります。さらに、北海道開発局が中心となって実施している中継輸送実証実験に、北海道運輸局も業界団体とともに連携・協力し、本実証実験の結果も踏まえつつ、広域分散型の地域構造を有する北海道の特性に即した持続可能な物流の確立に向けた検討を進めてまいります。

 経済活動の正常化に伴う運輸・交通・観光各セクターへの期待が高まる一方で、足下を見てみますと、バス・タクシー・トラック運転手や観光事業を支える担い手の不足が原因となり、バス路線の縮小・廃止やホテル等での施設の稼働抑制や食事サービスの提供中止などの影響も散見される状況にあります。今後ますます増加していく北海道への旅行需要をしっかりと取り込むためにも、これらセクターの担い手の確保は急務です。北海道運輸局としましては、運賃算定基準の見直しや運賃改定の迅速化を通じて、給与等の処遇改善を促すほか、ドライバーに必要な第二種運転免許取得費用の支援などを進めています。さらに、即戦力確保の観点から、大型車免許保有率の高い退職予定自衛官向けのバス・トラック等の運転体験・就職説明会の開催や、道外からの担い手確保に向けて、北海道への移住・定住イベントでの移住に伴う求職者への就業の働きかけにより、運輸・交通・観光セクターの担い手の確保の後押しを進めております。あわせて、省人化・効率化等に資するDX化・GX化等の設備投資も支援してまいります。
 これらの人材確保の取組を進めつつ、人口減少等の進行による地方部等での利用者数減少により厳しさを増している公共交通について、地域の移動手段の確保に真摯に取り組んでまいります。具体的には、改正地域公共交通活性化再生法(地域交通法)に基づき、地域の関係者の連携・協働(共創)を通じ、利便性・持続可能性・生産性の高い地域公共交通ネットワークへの「リ・デザイン」(再構築)を進めてまいります。あわせて、地域住民や旅行者一人一人の移動ニーズに対応して複数の公共交通や移動サービス等を最適に組み合わせ検索・予約・決済等を一括で行うMaaS(Mobility as a Service)については、地元経済界を中心に、全道的な交通と観光の共創を目指した「北海道MaaS」の実現に向けた検討が進められていることから、こうしたMaaSの広域化等についても引き続き支援してまいります。

 今後の社会のあり方を考えるうえでは、持続可能性は最も重要な要素の一つです。「ゼロカーボン北海道」の実現に向けて、関係機関等とも連携し、事業用自動車における電動化や物流施設における再生可能エネルギーの活用に必要な設備等の導入など「交通GX」を推進するとともに、サイクリング、カヌーやロングトレイル等の非動力によるモデルルート造成等環境負荷の少ない観光の推進に取り組んでまいります。

 基幹産業である観光においても、オーバーツーリズムの懸念が顕在化する中、持続可能性は重要です。地域の魅力を最大限引き出し、また地域に貢献する観光のあり方として、身体を使った活動(アクティビティ)だけではなく、野鳥の観察等「自然」に触れることや歴史や伝統、食も含めた「文化」を体験することで、訪れた地域の理解を深める「アドベンチャートラベル」は、旅行消費額も通常の旅行の約2倍と地域経済効果も高く、北海道における「持続可能な観光」の大きな柱の一つになるものであり、『ゼロカーボン北海道』の実現にも資するものと考えております。昨年9月に札幌を中心として開催されたアドベンチャートラベル・ワールドサミットでは、海外の有名バイヤーやメディア関係者など約770名の参加者が北海道を訪れ、北海道が持つ価値・魅力を体験し、北海道がアドベンチャートラベルの有望な旅行先であることを強く印象づけることができました。今後、北海道への訪問意欲は益々高まっていくことが見込まれます。引き続き、道内各地の魅力あるコンテンツの洗い出し・磨き上げを行うとともに、誘客を推進し、地域における消費機会の拡大などにつなげてまいります。さらに、昨年11月にとりまとめられた経済対策を踏まえ、経済の回復基調の地方への波及等を図るため、補正予算等も活用し、足下の円安を活かした地域の「稼ぐ力」の回復・強化に向けて、観光地・観光産業の再生・高付加価値化の支援やオーバーツーリズムの未然防止・抑制等の地域の取組を強力に後押ししてまいります。特に、冬季のニセコ地域での外国人旅行者等によるタクシー需要の増加に伴い、生活者が必要な時にタクシーを確保できないといったオーバーツーリズム懸念に対し、地元自治体や北海道ハイヤー協会等と連携し、期間限定でタクシー車両・乗務員を営業区域外から派遣し、ラストワンマイルの移動手段を確保する「ニセコモデル」を構築・実施するなど、解決に向け、適切かつ果敢に対応してまいります。

 このほかにも課題は山積していますが、北海道運輸局として、道民・国民の皆様方のご意見を真摯に伺いながら、各種施策を総力を挙げて推進することで、「北海道を元気に」、そして「北海道から日本を元気に」していくことができるよう、職員一丸となって取り組んでまいります。安全・安心の運輸・観光行政の徹底とその推進を通じて、北海道の益々の発展と皆様のご多幸をお祈り申し上げ、年頭の辞とさせていただきます。

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