海運業界はグローバルに活躍でき、専門的な技術を身につけられる魅力的な職業選択肢ですが、「船の仕事」について具体的にイメージ出来る人は少ないのではないでしょうか。船の仕事にはどんな魅力があり、船の仕事に就くにはどうすれば良いのかなど、飛鳥Uで活躍する現役の女性機関士にお話をお伺いしました。
【インタビュー】 飛鳥U 女性機関士が語る海の仕事の魅力とは
船の仕事を目指すようになったきっかけを教えて下さい。
私は大学受験の際、工学系の学科に進学することを目標としていましたが、第一志望の大学に合格できず、水産系大学の海洋機械工学科に進学しました。本科は8割以上の学生が船乗りを目指す学科のため、想像していた機械工学科とは少し違っていました。
実は大学に入学するまで、船の仕事の事を全く知らない状態で「船乗りとは?」からのスタートでした。入学当時は在学し続けるか違う道を選択するか迷いましたが、「運命かも」と思い当校を卒業し機関士として働き始めました。
実際に就職してみて、海運業界のイメージは変わりましたか。
前述したように、海運業に対してイメージできていなかったのでギャップはありませんでした。初乗船はいろんなことを覚悟して乗船しましたが、船内の生活は意外に心地よかったのが印象的でした。
飛鳥Uの魅力を教えて下さい。
最大の魅力は世界各国、日本各地の港に寄港できることです。世界各地の港に寄港し、自国以外の国に対する考え方が変わりました。外地の探索は毎回楽しんでいますが、やはり私は「日本が一番いいな」と感じます。
もう一つの魅力は、他船とは違い多くの部署があることです。客船以外の船は主に甲板部、機関部という2部署に大きく分けられますが、飛鳥Uはこれに加えホテル部が加わります。そのため乗組員だけでも500名近く乗船しており、様々な職種・国籍の乗組員と交流できます。

現在はどのような業務を担当されていますか。
三等機関士として業務に従事しています。担当は主に機関当直(4−8)、造水器、空気圧縮機、補油です。
機関当直は毎日朝4時〜8時/16時〜20時を担当しています。お客様を安全で快適に目的地へ到着できるよう、モニタリングを行い、異常があれば即座に対応しています。
本船は造水器を使って海水から真水を作っています。真水はお客様、乗組員問わずライフラインとなるため、毎日欠かさず入念に点検をしています。
船員の魅力はどういったところにあるとお考えでしょうか。
集中的に働き、まとまった休暇が取れるところだと思います。本船は4か月乗船/2か月休暇というサイクルなので、2か月の休暇中に普通では出来ないことがたくさんできます。
また、機関士として働いてみて、性差はないと感じています。
働くうえでのやりがいはどこに感じていますか。
当直中にアラームの原因を突き詰めて、故障箇所を直して通常状態に戻った時です。主にトラブルを解決した時にやりがいを感じることが多いです。その他に、4か月休まず一生懸命働いた分、給料日や下船日にやりがいを感じます。
人の命をあずかる仕事として、業務上心がけていることは何でしょうか。
エンジンを始動する時や機器を操作する時など、手順にミスが無いか細心の注意を払っています。とても緊張する場面です。最近の機器は、制御用PCの画面をワンクリックするだけで機器の発停や制御が可能ですが、逆を言えばワンクリックで船全体を危機にさらすこととなります。そのため、制御用PCの取扱い前は間隔を置いて3度確認するようにしています。
当直中は、機関長の権限を移行して業務を遂行することとなるため、当直中に起きた事案については当直機関士が責任を負うこととなります。定常状態の数値を頭に入れ、現状を比較することでトラブルの未然防止や早期発見に努めています。
勤務時間中は気を抜ける場面が無いので、その分休憩中のリフレッシュは重要です。
長期に渡る航海中、船内生活において仕事とプライベートにメリハリをつけるためのリフレッシュ方法や癒やしなどはありますか。
リフレッシュの方法はいくつかあり、船内での運動や友人との親睦会、寄港地観光などがあります。
本船のプロムナードデッキは1周約500mあり、 景色を見ながらのランニングに最適です。雨天時は 室内にジムがあるのでそこで運動することが出来ます。時には、部署を問わず同年代の友人と集まり近況報告
しながらお酒を嗜みます。
寄港地観光の際は、その土地ならではの食を堪能し業務の糧にしています。

今後の夢や目標はありますか。
機関部管轄の事なら何でも知っていて、異常時に即対応できる知識と技術を兼ね備えた機関士になりたいです。
女性機関士として、プライベートと仕事を両立する機関士になるのが夢です。
船の仕事を目指す若い方達にアドバイスをお願いします。
私の周りの船乗りは幼いころから船を目指していたという人は少なく、私と似た動機の方が多いです。目指し始めた時期に早い、遅いなど関係ないので興味や関心があれば目指してみてはいかがですか。
また男性が多い職種ですが、仕事をする上で性別の差は関係ありません。頭脳と道具を正しく使うことで体力差は容易にカバーできます。
船の職員は各階級1人しかいません。そのため自分の担当業務については責任を持って向き合っていく(時には自分を追い込むことのできる)精神力が必要となります。どの職種でも共通ですが責任感のある方を求めます。
船や海に興味がある方はもちろんですが、長期の休暇で趣味に没頭したい、仕事だけに集中したい(乗船中は洗濯以外の家事はしなくてよい)等、陸上とは違う働き方に興味がある方も大歓迎です。
〜PROFILE〜
氏 名 大曲 可倫
会社名 郵船クルーズ株式会社 三等機関士
経 歴 福岡県出身
2017年 縁あって水産系大学に入学
2021年 大学卒業。同科専攻科に入学
2022年 専攻科卒業。3級海技士(機関)を取得
2022年 官公庁船に就職し、海技技術者としてキャリアを積む
2023年 2級海技士(機関)を取得
2024年 郵船クルーズに転職。飛鳥Uの三等機関士として従事
